私たちが干刈あがたを失ってはや6年が過ぎた。
干刈あがたは、私たちの前に『樹下の家族』(海燕新人文学賞)で颯爽と登場し、同時代を生きる女性達の魂の同伴者として熱狂をもって迎えられた。
デビューして世を去るまでの10年間というほんの短い期間に、芸術選奨新人賞を受賞した『ゆっくり東京女子マラソン』をはじめ、野間文芸新人賞の『しずかにわたすこがねのゆびわ』、新聞小説として社会的反響を呼んだ『黄色い髪』など、力作を次々とものにしていった。そして現代家族のゆらぎ、女性の自立、人間同士の新しい絆、教育や老いの問題など、時代の課題を担う希有な女性作家として、一歩一歩誠実に仕事を積み重ねた。
真面目不器用に映るまでに真摯な干刈あがたの姿勢は、現代に生きる私たちが抱えざるを得ない深い断念や孤独をさえ覗き込み、悲しみや切なさや辛さを超えた明るさに到達している。
世紀末の混迷深まる今日こそ、間違いなく干刈あがたの作品がその真価を発揮する時である。その仕事は、時代を超えた光を放ち、これからも苦しみ悩みながらも、時代を真剣に生きようとする人々の心の糧となりつづけることだろう。
『干刈あがたの世界』刊行委員会
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