毛利さんより突然のお電話で、ホームページに載せる和枝ちゃん(干刈あがた)の思い出を文章に書いて欲しいとの事、私は彼女との鮮明に残っている想い出 はいろいろあるけれど、文字にする事は大の苦手で、皆様におひろめするようなエピソードは思春期を迎えた少女の頃の、恥ずかしい事が多くとても書けないと お断りしたのですが、毛利さんの一言「和枝ちゃんを喜ばせたいでしょ」との殺し文句で、気の弱い私はそれ以上抵抗する事ができませんでした。
私と「干刈あがた」以前の和枝ちゃんとは中学3年生のとき同じクラスになったのが縁で仲良くしていただいたのですが、実はそれ以前、小学校5、6年生時 代に近隣の小学校で放課後、化学教室というのがあって、和枝ちゃんとは小学校が違っていたのですが、私も和枝ちゃんもその化学教室に通っていた事から、お 互いに見知っていたと言う話になりました。
和枝ちゃんは、美しいお母様と、当時ハンサムでモテるというお兄様が自慢で、妹さんを可愛がり、お父様を除いて一致団結の強い絆で結ばれた家族でした。 私はお父様には和枝ちゃんの言う「洗礼」を受けたこともありますが、楽しそうに接してくれたのを覚えています。その時、私は和枝ちゃんはお父様似なんだ と思ったのです。 また、和枝ちゃんは人に握手させるのが好きらしく、私が初めて握手したのが和枝ちゃんのお兄様でした。「妹をよろしく頼む」と言われ、私はよろしくなん て言われてもなんと答えてよいか戸惑い、ただなんと妹思いの兄と、兄思いの妹かと感激したその時のシーンは鮮明に覚えています。
中学3年生の春に京都へ修学旅行があり寺社巡りをして帰った後だった頃、和枝ちゃんは私を弥勒菩薩のようだと言ったことがありました。「えっ、何で私が 仏様なの?」とびっくりしましたが、その時クラスメートにあだ名をつけるのが流行ってもいたし、修学旅行で見た仏さまの顔に少しでも似ている所があるのか しらと考えていましたが「みろくぼさつ」と言う言葉は私の心に不思議な疑問として残っていました。
後年二十年以上も経た頃だったでしょうか、心にひっかかていた「みろくぼさつ」の事を思いきって尋ねたら、それは「年頃の少女が同性に憧れる時があるで しょ、それがあなた(ターコ)だったのよ」と告白されました。当時の私を振りかえると、和枝ちゃんと親しくなるにつれ私にがっかりすることが多かったに違 いないと思うと恥ずかしく消え入りたい気持になったのですが、いま思うと一時にせよ和枝ちゃんにそう思われたことは光栄であり心の宝物のひとつとして想い 出になっています。
当時の私には辛い悩み事があり、言えることは打ち明けあったり、そうでない事は口では言わなくとも心にかけていてくれ、お母様も一緒にいろいろいと心配 して下さっていた事は、私自身とても感じていました。 社会人になって、私が入院した事がありましたが、知らせた筈のない和枝ちゃんが突然お見舞いに現れて、そう言う時の彼女の優しさがとっても嬉しかったの も忘れません。和枝ちゃんはそういう人でした。人の気持も的確に判断し、さまざまな場面でボソッと言う言葉がとても印象に残る話し方でした。和枝ちゃんと の想い出を裏切らない様に人生を豊かに楽しく送るべく歩んで行くつもりです。
人と人との出会いが、未来の世界を豊かに広げてくれますね。私は偶然飛行機でルーマニアの女性と席が隣り合ったのが縁でそれから、今の私には思いもかけ なかったドラマが展開されてきました。いろいろの人と知り合い、知らない世界をみる事ができ、思わぬ経験をする事ができ、何よりも親しい人が増えた事で す。こんなに変化のある人生が生まれてくるなんて人との出会いとは不思議で素晴らしいのもだということを実感しています。これからも縁を大切に育てていこ うと楽しみです。自分にない世界が広がって友人も増えるのが何より嬉しいです。
また、私たちのクラスは仲良しで、和枝ちゃんが売り出した頃には、彼女を囲んでクラス会が開かれ、芥川賞の有力候補になった時には、原宿のクラスメイト が経営する「りんご家」に集って発表を待ったりしたこともあります。かずえちゃんが病に倒れてからは皆が集った時には、電話で一人ずつ話をして元気付け、 治ったら皆で彼女の活躍を応援しようと話していたのに残念でした。この「りんご家」でも彼女は私やクラスメイトを握手をさせて、皆を結び付けてくれたので す。 和枝ちゃんはあまりにも早く天国に逝ってしまったけれど「干刈あがた」のコスモスの会が誕生して握手をさせるのが好きな和枝ちゃんが私達に人と人とを繋 ぐ出会いの場を提供してくれました。この輪が大きく広がってゆくことを願っています。
和枝ちゃんの生き方がドラマチックであったように、いろいろな出会いの中でさまざま小説の種になるような出来事があります。私もいまならあんな事こんな事、書いて欲しいような材料を提供してお願い出来るのにと思うと残念です。 和枝ちゃん、天国で選り取り見取りの種をつかんで、好きな小説を書き続けて行って欲しいと祈っています。 |